「たった、それだけ」宮下奈都
あらすじ
「逃げ切って。」贈賄の罪が発覚する前に、望月正之を浮気相手の女性社員が逃がす。告発するのは自分だというのに–––。
正幸が失踪して、残された妻、ひとり娘、姉にたちまち試練の奔流が押し寄せる。正幸はどういう人間だったのか。
私は何ができたか・・・。
それぞれの視点で語られる彼女たちのない生徒一歩前に踏み出そうとする“変化”。
本屋大賞受賞作家が、人の心が織りなす人生の機微や不確かさを、精緻にすくいあげる。
正幸のその後と共に、予想外の展開が待つ連作形式の感動作。
本書裏表紙より引用。
読後の感想
あらすじで語られている"変化"は、とても些細なきっかけによって齎される。
タイトルの通り、読者から見ても、恐らくは登場人物から見ても「たった、それだけ」のことで。
正幸が失踪するきっかけとなったのは「逃げ切って。」という一言、女性社員が正幸に投げかけた理由は過去に出来なかった「たった、それだけ」を思い返したから。
失踪した夫の妻は些細なことを守り続け、娘が母に抱いていた感情は、ある鳥な話を聞くことで変わっていった。
教師が初志を思い出すのも、介護施設で働く若者が人生を切り開いたのも、本当に些細な出来事。
それは、当人にとっては目の醒めるようなパラダイム・シフト。
人の生き方も思想も"たった、それだけ"のことで変化する。
もちろん、正幸とその家族のように変化が齎すものが一概に良いものとは限らない。
それでも、ほんの少しの出来事で、
変化し続けることが可能だということを再確認出来る一冊。